2013年12月28日土曜日

[J:20] 1993年5月16日~17日 動機が純粋だが社会性の無いプロジェクトでもいい ~オーストラリアをチャリティで歩いているNobby氏に会って思うこと~

1996年5月16日に会ったNobbyさんの事はよく覚えている。写真に写っている帽子は、実家の自分の部屋だった所に、長い間トロフィーの様に引っ掛けてあった。ベットがあった足側の壁に掛けておいたので、そこで寝ることがあったら、朝起きた時に一番最初に目に入っただろう。スポンサーであるオーストラリア郵便局のロゴが白地に大きく赤でプリントされた帽子は、母親には何かの景品の粗品にしか見えなかったのだろう。残念ながら、いつの間にか捨てられていた。その部屋は、すでの私の部屋では無いのでしょうがないことだ。

Nobbyも彼のマネージャーも彼の偉大な歩きを記録していたカメラマンも、常に笑顔でいい人だった。僕は天邪鬼なので、いい人を見ると逆に疑り深くなってしまう。当時、冗談半分で、長所と短所の欄(日本の履歴書には今もこんな欄があるのだろうか)に、「長所:好青年に見える所。短所:実はそうではない所。」と書いた事もある。かっこ良く書けば、吉川英治氏の宮本武蔵の小説で、宮本武蔵が宝蔵院を訪れた時に、武蔵の殺気の強さが、鎌を持った老人に跳ね返り、その老人から殺気を感じる様なものと同じで、自分の腹黒さが跳ね返って、良い人を見ると「お前、腹黒いだろう」を斜めから見てしまう。

しかし、Nobbyチームは本当にいい人で、いいおっさんで、恵まれない子供たちのチャリティの為に歩いていると言っていた。一方、40歳の私には既にくだらない事になってしまったが、当時は、それこそ命がけで「自分の企画をどれだけ妥協せずに実現させるか」の自分探しプロジェクトのためだけに、20歳の僕は自転車を前に進めていた。

僕がちっぽけに思えた。




アウトバックや北海道に行った時に、一人で夜空を見上げる時も、星の数、闇の深さ、そして見えない地平線まで続く空の大きさに、自分が小さく感じる。この場合、対象は勝てっこない全宇宙なので、清々しい敗北感だが、対象がNobbyの様な息を吸って吐いている人間であると、ちっぽけに思えることに罪悪感を感じる。20歳の僕は、いちいち小説を読むたびにその後1時間は話ができなくなるぐらい感受性が強かったので、金属バットで頭を殴られたぐらい打ちのめされただろう。

この旅を企画していた時に、東京の友人が「カンガルーの保護でもなんでも大義名分をつくって、スポンサーを持てばいい」とアドバイスをくれたが、それは動機が不純なので受け入れられなかった。カンガルーでも、黒い白鳥でも、シドニーの野良猫でもいいが、これらの保護を先に考えてから自転車でオーストラリアを一周することを考えついていれば良いが、先にオーストラリアの自転車一周を思いついてしまったので、その後、チャリティの為に走ることは不順で不純だった。だから、自分で飛行機を洗って、資金を貯めてオーストラリアに来た。

Nobbyはオーストラリアの郵便局からスポンサーを貰っており、「恵まれない子供へのチャリティを先に考えて、そのために走ることを企画」したのか、「オーストラリアを歩いて一周する事を先に考えて、そのためにチャリティを企画」したのか、当時の僕にも、今の私にもわかりっこない。しかし、実際はどちらであったにしろ、当時の僕には、彼の動機は前者だったと思える人柄に写った。だから、僕は自分がちっぽけに思えた。


ヒーロー性は、誰の中にもある。それが結果としてどう出せるかで、社会に影響を与えられる。仮に、彼の動機が後者であっても、かれの社会的なヒーロー性のおかげで、オーストラリアの恵まれない子供たちは、寄付金を得られる。僕が自転車でオーストラリアを一周する動機は、純粋だったが、自分に向けてだけの内向きなヒーローイズムだったから、社会に何も利益を及ぼさない。そんな僕と私だから、僕は一周中に、「そんな事の為にしているんじゃない」と2度も新聞記者の取材を断っているし、私はいままでこの日記も誰にも見せなかった。

「動機は純粋だが、社会性の無いプロジェクト」より、「動機はわからないが、社会性のあるプロジェクト」の方が素晴らしい。これが出来る人を私は素晴らしいと思うし、カリスマ性を感じる。あの様に成りたいと思う反面、天邪鬼の自分が足を引っ張る。しかし、せっかく手に入れた知識、技能、多少なりの認知度を社会に貢献していくべきだと最近は思う。少しづつだが、そっちの方向に自分を向けていくようにする。

40歳の私の緩い決意話を書き続けたら、マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」より長くなってしまうので、20年前のNobbyに話を戻す。天邪鬼でちっぽけに思えた僕にも、良心はある。だから、彼のチャリティに$10を寄付したかった。しかし、彼は受け取らない。彼にもこの$10の重みがわかったのだろうか。ここに来る為に、僕は数えきれない(きちんと計算すれば可能だがそうしたくない事もある)飛行機を洗った。目標金額には届かなかったため、一周出来る最後まで自分の資金が持つかわからない状況で、旅を続けている。ちっぽけな$10だけど、僕には必要になるかもしれない$10だ。彼はそれを受け取らない。そして、僕がなんでこんな旅をしているのか、日本で友人や家族がどう思っているのか話をしたと思う。一匹狼な事を話したかもしれない。




彼の返答は、このメッセージに込められている。このメッセージを見ただけでは、込められたものはわからないだろう。人に受け入れられる事により、人は心を開く。これは、20年前の僕が得意なことでは無く、年を取れば更に難しくなることは、自分の子供を見ればよく分かる。幼児は、相手を褒める事においても、褒められる事においても天才だ。年を取ってくると、何故かどちらも苦手になる。Nobbyは僕のしている旅が自己満足のためであっても受け入れてくれた。そして、家族や友人に、彼がそれを素晴らしいことだと思っていると伝えなさいと書いてくれた。

翌日の1993年5月17日に、僕はNobbyと一緒に少し歩いた。空は晴れていた。葛藤し続けている20歳の心にも晴れ間があっただろう。これもよく覚えている。

4 件のコメント:

  1. 気づいた訂正箇所です。参考までにしてください。

    >写真に写っている帽子も、実家の自分の部屋であった所のベットがあった足側の壁側に、長い間トロフィーの様に引っ掛けてあった。→写真に写っている帽子は、長い間、実家の自分の部屋だったところにトロフィーの様に引っ掛けてあった。
    >スポンサーであるオーストラリア郵便局のロゴが大きく白地に赤でプリントされた帽子は、→スポンサーであるオーストラリア郵便局のロゴが白地に大きく赤でプリントされた帽子は、
    >その部屋は、すでの私の部屋では無いので、しょうがないことだ。→その部屋は、すでに私の部屋では無いのでしょうがないことだ。
    >当時冗談半分で→当時、冗談半分で
    >良い人を見ると「お前、腹黒いだろう」を斜めから見てしまう。→良い人を見ると「お前、腹黒いだろう」と斜めから見てしまっていた。
    >恵まれない子供たちのチャリティの為に、歩いていると言っていた。→恵まれない子供たちのチャリティの為に歩いていると言っていた。
    >一方、40歳の私が思えばくだらないが、当時はそれこそ命がけで「自分の企画をどれだけ妥協せずに実現させるか」の自分探しプロジェクトのためだけに、20歳の僕は自転車を前に進めていた。→一方、40歳の私が思えばくだらないが、当時は、それこそ命がけで「自分の企画をどれだけ妥協せずに実現させるか」の自分探しプロジェクトのためだけに、20歳の僕は自転車を前に進めていた。
    >見えない地平線まで続く空に大きさに→見えない地平線まで続く空の大きさに
    >対象がNobbyの様な息を吸って吐いてしている人間であると、→対象がNobbyの様な息を吸って吐いている人間であると、
    >これらの保護を先に考えてから、自転車でオーストラリアを一周することを→これらの保護を先に考えてから自転車でオーストラリアを一周することを
    >「動機が純粋だが、社会性の無いプロジェクト」→「動機は純粋だが、社会性の無いプロジェクト」
    >少しづつだけど、そっちの方向に自分を向けていくようにする。→少しづつだが、そっちの方向に自分を向けていくようにする。
    >「失われた時を求めて」より、長くなって→「失われた時を求めて」より長くなって
    >資金が持つかわからない状況で、旅を続けている。→資金がもつかわからない状況で、旅を続けていた。
    >幼児は、褒めるのも褒められる事も天才だ。→幼児は、相手を褒めることにおいても、褒められる事においても天才だ。



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    1. いつも、ありがとうございます。参考にして、編集します。これからも、よろしくお願い致します。

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  2. >アウトバックや北海道に行った時に、一人で夜空を見上げる時も、星の数、闇の深さ、そして見えない地平線まで続く空の大きさに、自分が小さく感じる。この場合、対象は勝てっこない全宇宙なので、清々しい敗北感

    サーフィンをやった際に言われたコレ、非常に印象に残っています。自然の偉大さに対する潔い敗北感。


    >「動機は純粋だが、社会性の無いプロジェクト」

    私は全てやりたいから、面白そうだから、やってますね・・・。この比較は興味深い。

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    1. 自分をちっぽけに感じると、悩みとかもバカバカしく思えるので大好きです。だから、巨大な波とか、冒険が好きなんでしょう。

      長島さんとか、しんさんとかは、社会性があって純粋に素晴らしいと思います。それで、さらに楽しめたら本当に最高だとよね。

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